2012年12月14日金曜日

投手の育成~アジア選手権編

BFAアジア選手権において合宿から沢山の投手の練習風景を見守ってきましたが、最近の投手は、昔の投手と比較すると非常に多くの練習メニューをこなしていると感じました。
肩のストレッチから始まり、インナーマッスル強化、ウォーミングアップ、遠投、30M間での立ち投げ、それからブルペンでの投球練習、フィールディング練習、ランニング、個人の課題練習、最後に筋力トレーニングといった流れですか。
一昔前の投手をやっていたという人の話を聞くと「投げて、走って、腹筋、背筋」で終わりという具合で、「投げるか、走るか」が投手の練習メニューときっぱりと言われます。それから、「毎日、今の選手よりも沢山投げていたな」と必ず言われます。
当時は、球数を管理するなどという観念はなかったはずですから相当な数(150~300球)は投球練習をしていたのでしょう。
話を戻しますが、今回のメンバーの捕手に「自チームで、投手の投球練習について口を出しているのか?」と質問をしたことがあります。「練習方法について会話はしていますが、取組み方までには口出しをしていません」と答えが返ってきました。
なぜそのような質問をしたかというとブルペンで投球練習している中で、持ち球(球種)が非常に多彩となっており、殆ど満遍なく投球練習を繰り返していたように映り、尚且つ、全ての球種の精度が低く感じたからです。
例えば、ストレートを3球投げたら、次はスライダーを2球投げ、続いてチェンジアップを2球投げ、カットボールを2球投げ、最後にフォークボールを2球投げといった類です。
今記載したとおり、全球種を均等に投げることで、試合で一番投げなくてはならないストレートの練習の割合が極端に減っているように見受けられたからです。
昔から「困ったらアウトコースの低め」と言われていますが、これで本当に勝負どころでアウトコースの低めに投げられるコントロールが身につくのでしょうか?かなり疑問です。
最近は配球理論が流行っている野球界ですが、プロの一流どころのように全てのボールを思うようにコントロールできるから配球が成り立つのであって、投げてみないと分からないようなアマチュア投手にそんなに配球を重視する方がおかしいと思います。
アマチュアのレベルは得意なボールの精度を上げ、先ずはそのボールで勝負するというレベルで十分と考えています。色々な球種を投げすぎるために得意なボールの伸び、精度がストップしているような気がします。
色々な球種を投げて討ち取る投手が良い投手だと思っている人が多いのではないでしょうか?
昔の大投手は、ストレートとカーブの二つしか投げずにプロ野球で200勝をあげています。江川さんなんて基本的にストレートしか投げなかったといっても過言ではありません。それでも相手は打てなかった。今このような投手が少なくなってきましたね。
高校生で「俺のストレート打って見ろ!」と投げ込む、粋の良い投手は見当らなくなりました。
カウント1-3、相手はストレート待ち、配球的には変化球ですが、ストレート勝負という投手がいなくなりましたね。
配球の話をしましたが、ストレートとカーブしかない投手と7球種程度持っている投手の配球パターンの数の違いは数学を習ったことがある人であれば一目瞭然。複数球種を保有すると捕手もパターンが沢山ありすぎてリードも大変です。
勿論、沢山の球種をもっている方が打者に的を絞らせないということでは有利になることは間違いないです。
が、アマレベルで多くの球種を思ったとおりに投げられるような投手は滅多にいません。現にアジア選手権チームでも本当にコントロールできていたのは、ベテランの投手2、3名でありました。
そのようなことを考えると捕手は、投球練習において信用できない持ち球を練習させるよりもより、自分がサインを自身を持って出せる、信頼できる球種のコントロール、質の精度を上げることを練習させることに執着した方が良いと思います。
結果的に試合において、自分のリードが出来、勝つことに繋がるはずです。
少ない球種の投手をいかに上手くリードできるかというのことが捕手の醍醐味でもありますし、投手の凄さでもあります。
「二つの球種で打たれ出したから、三つ目の球種を覚えなさい」ぐらいの感覚でアマレベルは丁度良いと思っています。
先ずは、ストレートの切れとコントロールです。
アジア選手権のブログの中に大学生代表である我が後輩の吉永投手、次年度のドラフト筆頭候補の大瀬良投手の投球練習を見守っていました。それは沢山の球種を練習していました。(二人とも素直で、真面目に練習に取組む本当に良い子でした。)
吉永は、ストレート、カーブ、シンカー、チェンジアップ、スライダー、カットボール。
大瀬良は、ストレート、スライダー、チェンジアップ、カットボール、フォークボール(カーブ殆ど投げていない)。
器用に沢山のボールを投げるのですが、見ていて全然、面白くない。
殆どがコントロールされておらず、特にストレートの精度が悪すぎる。その割には直ぐに他の球種を投げたがる。正直、二人ともスライダーとカットボールのコントロールは最悪です。それでも大学生レベルでは押さえてしまうから勘違いするのでしょうね。ちょっと抜けた球、コントロールされていない球でも討ち取れるのかもしれませんが、他国のプロ相手では、そのような出来では通用しません。
大瀬良には、カーブを再度覚えさせました。カーブは下半身を使って投げないと球持ちが悪く、コントロールもできない。また、カーブを投げることによってバランスが良くなり、ストレートの投げ方、精度も上がるという効果を期待しての選択でした。ものの見事に短期間で習得しました。今まで直ぐに困ったらコントロールもできていないスライダーを投げていましたが、アジア選手権ではストレートとカーブの緩急で勝負し、見事な投球を披露しました。
吉永は大学に入ってからスライダー、カットを覚えたらしいですが、この二つは投げるなと指示しました。なぜかというとストレートの質が他の投手と比較しても群を抜いて良い。スピードガンでは143km程度ですが、杉内を思い出させるような球質を持っている。この一番討ち取れるボールを選択せず、コントロールもできないスライダー、カットを投げてはならないと指示しました。当然、捕手に強く指示したのですが・・・。
それから、シンカー、カーブは真ん中付近をめがけて完全ボールを避けろと指示しました。狙いすぎて、ホームプレート前でワンバウンドしたりするシーンがリーグ戦で目だっていましたので、兎に角、ストライクゾーンに行くようにコントロールしないさいと指示もしました。
読み進める中で既にお分かりかと思いますが、二人に共通して指示したことは、横の変化でなく、縦の変化、即ち「緩急で勝負しろ」ということです。小手先で簡単に投げることが可能なスライダー、カットはややもすると投球フォームのバランスを悪くする要因ともなりまし、肩、肘の障害を引き起こしかねません。
しっかり、からだ全体を使って投げることで、肩への負担、障害も減るということを教えたかったこともあります。
二人とも理解できたかは、定かではありませんが、少なくとも次年度の二人の投球は、ストレートの比率が多くなることと思いますし、緩急が主体になってくるでしょう。
「二人とも逃げたらいかんぞ!」

指導者の皆様、投手の練習内容をじっくり観察してください。
この投手の何が武器なのかを見極め、アドバイスしてあげることが非常に大事な指導者の役割と思います。





2012年12月7日金曜日

BFAアジア選手権 総括


BFAアジア選手権が5連勝で終了しました。前号で台湾戦を振り返り、引き続き試合ごとにレポートするような気配を見せましたが、デーゲーム、ナイターの連続でその余裕もなく、結局は大会が終っての総括という形で報告を致します。
このブログの読者数が私の想像以上であることに非常に驚きを隠せないでいるのですが、この遠征で今回初めて選手が読んでいることも判明しました。
愚痴をこぼさなくて良かった・・・。
では、早速、大会総括を記載します。

VS パキスタン(13対0)
1戦目のスターティングメンバーを大幅に変更して臨みました。正直、パキスタンはまだまだこのような大会に参加して対等に戦うレベルではありません。
選手には「100%、勝つことはわかっている。しかし、参加しているパキスタンの選手に参考になるように必死でプレーをしてくれ」と話をしました。
選手は手を抜くことなく、真面目に試合をしてくれました。
先発の大瀬良、リリーフの新垣、秋吉には「今日の登板もあるが、以降の試合もあるのでしっかり投げるように」とも指示しました。事実、0点で乗り切り、特に大瀬良は9者連続三振といくら格下の相手といえども素晴らしすぎる内容で自信を深めてくれたと思います。また秋吉も国内以上の球威を披露し、次なる登板に期待を持たせてくれました。
雨による開始遅延にも拘らず必死で戦ってくれた選手を見て以降の試合もやれると確信し、ベンチ入りの殆どの選手が今大会に出場し、チームが更に結束した試合であったと感じています。

VS フィリピン(1対0)
雨が降り続く中、試合開始14時予定が17:00開始となり午前10時に休場入りしてから相当待たせられた大変なゲームでした。
国際大会では当たり前といえば当たり前ですが、この日が条件的には一番厳しかったです。台湾体育大学の学生が50人ほど動員され、内野を覆うシートをとっては、またかぶせと必死のグランド整備の結果、何とか試合ができたという状況でした。
この天候により7イニング打ち切りということを試合前から宣告されており、兎に角、早く試合を終えて明日の韓国戦に備え、コンディショニングを悪化させないことを念頭において戦いました。
とは言え、フィリピンの投手陣は近年それ程悪くなく、特に左投手が大会ごとに成長していることはよくわかっていたため、手を抜くことなく、主力中心のオーダーで挑みました。
スコア通りの僅差となりましたが、打撃陣が悪かったわけではなく、フィリピンがよく守ったという印象です。非常に集中力がありました。
試合前に「1対0」で勝つと冗談めいたことを言っていたことが本当になりました。
この試合では、5回のフィリピンの2死2,3塁の攻撃で打者が三振したボールを体に当てボールデットになったにもかかわらず、転がるボールをインプレーとミスジャッジした韓国の審判が特に目立ちました。
当然抗議に行き、判定は1塁の塁審の助言により覆り、アウトとなりましたが、明らかにこのルールを主審は知りませんでした。これは世界大会であってはならない大問題です。以降は主審をすることが無かったので、大会運営側も厳重注意し、配慮したのだと思います。
フィリピン相手に僅差で「何やっているんだ」とお叱りを受けるかもしれませんが、野球はこのようなことは良くおきます。結果的に最後は1対0で勝つということが実力の差であると理解して戴きたい。
特に選手に苛立つこともなく、フィリピンの善戦をあっぱれと評価したいと純粋に思っています。

VS 韓国(4対0)
過去の日韓戦の経験から闘志むき出しで韓国は来ると予想していましたが、連日の雨模様のせいか、今までの雰囲気とは違い、また相手がアマチュアということもあってか少し構えた姿勢で試合前からいたようでした。
全勝同士の戦い、勝ったほうが大きく優勝に近づく大一番、先発には1戦目押さえに起用した最年少の吉永をマウンドへ送りました。この大会に入る前から勢いを出すためにも韓国戦は吉永と決めていましたが・・・。期待に応えて非常に良いピッチングをし、4回途中まで良い投球をしてくれました。
打線も吉永を援護するように先制点を松本が叩き出し、リードを保ったまま中盤以降を迎える優位な展開に持ち込みました。
韓国は台湾戦で好投した左の片山を意識してか右打線をそのまま継続。ここで吉永から連日好投の秋吉へスゥイッチ。秋吉のストレートはうなっていました。前に打球を飛ばさせず、以降9回1死まで殆どパーフェクトに押さえ込みました。
打線も期待に応え、追加点を取り、思い通りの展開に持ち込み、最後は切り札片山を投入し、完全に力勝ちしました。明らかにチーム力の差が出たと感じました。
韓国選手が試合後、「誰もプロがいないのか?」と洩らしていたらしいです。

VS 中国(10対1)
日本ハムにドラフト指名された新垣を最終戦の中国戦に先発。大会前から「もし、台湾または韓国に負けた場合、この中国戦はメダルをかけた大変なプレッシャーになる。」と考え、「アマチュアに恩返ししたい」という意気込みある新垣を最終戦までとっていたといのが本音です。
既にほぼ優勝が決定的な状況でありあまり気合が入らない状況であったと思いますが、連日投手陣が良い投球をしていたので別の意味でプレッシャーがあったのかもしれません。
新垣は内野手の2失策もあり、調子に乗る前に先取点を許し、本来の出来からは遠い内容でした。が、流石に3回を最小の1点で凌ぎ、ドラフト選手としての片鱗を見せてくれました。
今大会初めて先行を許した打線は焦ることなく、この日もしぶとくチャンスをものにし、4番の林が待望の本塁打を放つなど一方的な展開となりました。
投手陣は、新垣の後を濱野、大瀬良、大城と危なげなく繋ぎ、最後は開幕投手の吉田が締めて完全優勝を遂げました。
吉田の胴上げ投手は、大会始まる前から決めていたので、予定どおりのローテーションで回るという投手の頑張りが際立っていたといえるでしょう。
マウンドで集まる選手を尻目に私は先ずは中国チームの監督に握手を求めに行きました。
国際大会において友好の気持ちを忘れてはいけないとバルセロナオリンピックチームの山中監督より教わりました。中国チームのアメリカ人監督は第1声に「おめでとう」と言ってくれました。流石BASEBALLだなと改めて感じた瞬間でした。

野手へのコメントが少ないのですが、野手は全員が其々の持ち味を出してくれ、特に名前を出して賞賛する必要はないかと思っています。
強いてあげれば、大学生で社会人以上の打球スピードを披露した富士大の山川が社会人打者に火をつけたといえるでしょう。
もう一つ、今回コンパクトな守備体型が功を奏しました。これほど見事にセンター前をことごとく阻んだのも、合宿時からの意識づけの勝利と思っています。
勿論、二遊間の守備力もありますが・・・。

連日の雨天の中、献身的なプレーを続けてくれた選手に非常に頭が下がります。
また、この選手団を叱咤激励し、プレーしやすい環境を作ってくれたコーチングスタッフには改めて深い信頼と感謝の念で一杯です。
多端主将の「プロに勝ったぞ!優勝しちゃったぞ!」という選手への最後の掛け声は素直な気持ちの現われでしょう。
本当にいいチームであったと思います。
帰国した解団の挨拶で選手に対して「野球界への還元」を御願いしました。ここで学んだことを真面目に来シーズンに表現してくれることを選手全員に期待します。
来年の東アジア競技大会、再来年のアジア競技大会とアマチュアが出場するであろう大会がありますので、このメンバーがこの大会で得た自信を秘め、更に活躍することを祈念して大会の総括とさせて戴きます。