2013年8月6日火曜日

鷲づかみで投げる

私が所属する日本野球連盟の競技力向上委員会では、今回から新たに技術研究会を立上げ、「社会人野球選手に求める技術」というテーマで主に基本技術の追求を行なっていくこととしています。

そもそも「基本技術とは」と問われると「万民に通用する技術」、「誰がやっても変わらぬ技術」、「誰が教えても同じ指導となる技術」と言い換えられるのでしょう。

書店で野球に関する書籍を見るとこの類の本がたくさん陳列されています。
ざっと眺めただけですが、殆どの本がプロ野球選手をモチーフとしたケースが多く、本当にこの指導本を見て、指導者が理解できるのかなと違和感を感じます。
投手のスライダーの投げ方の解説とかが記載されている本もありますが、理解できるのでしょうかね。

購入する側の人というのは、殆どがアマチュアの底辺を支えているような方ばかりです。

例えば「このように投げなさい」というプロのモデルを示されてもイメージはわかりますが、それを実践できるようなジュニア選手は殆どいません。

ジュニア期の指導者の悩みは、どうすれば本に書いてあるような投げ方になるのだろうというこの「どうすれば」という部分を知りたいと考えます。

したがって、基本技術の解説を行なった際にそこに到達するための練習計画やドリルの紹介をたくさんすべきというのが私見です。
勿論、そのような指導本も多く販売されていますが・・・。

私は地元長崎において、文教シニアというチームの代表という立場で中学生を指導する機会を得ています。

或るときに一人の選手にイチロー選手がネクストバッターズサークルでよく行う、足を少し開いて膝をつけた状態でしゃがみ込むストレッチをテストしてみたところ、座ることさへ、出来ないという事象を目の当たりにしました。
このような選手にバッティングの膝の使い方などを指導してもおそらく全く理解できないと思います。指導者が目指している膝の動き事態が理解できないからです。

また、その類似例で、ジュニア期に多い投手のイン・ステップについて・・・。

指導本には、イン・ステップはコントロールをつけることが難しく、また肩・肘への負担が大きくなるため、まっすぐ踏み出せと記載があり、多くの指導者がこのイン・ステップを矯正しようとします。
しかし、足を上げて、片足でしっかりと立てないようなジュニア期の選手であれば、片足を上げ、両手を胸の前に上げた時点で前方向(右投手であれば3塁側)にバランスが傾き、ステップに入る瞬間に軸足の膝(右投手なら右膝)が前方向(右投手であれば3塁側)に動きながらステップするため、イン・ステップとなる傾向にあります。

この事象の要因を知っておけば、必然的に矯正するために何をすれば良いかが分かります。
答えは簡単、体力をつけることを優先しますし、イン・ステップをしても肩、肘に負担のかからない投球動作、投球数にしてあげることとなります。

このようにバッティングや投球動作など技術指導を行う前には、柔軟性、強さなどのチェックが必要となるのでしょう。

したがって、日常より指導者は選手の特性をしっかり見守っておく必要がありますし、指導者としての物指し(視点)を持っておく必要があります。

亡くなられた元巨人軍の藤田監督が王さん等と共に野球を通じ、少年の異国間交流を図るWCBFという活動にアマ側の指導者という立場で参加する機会を得ました。
その際に藤田さんが、「ボールの持ち方は中指と人差し指2本と親指の3点で握るのが基本って、すぐ教えたがるのだが特に小学生の低学年など、そんなの無理なんだよね。」「そういう時は、五本の指で鷲摑みか、或いは人差し指、中指、薬指の3本で持ちなさいと教えるのだよ」と話されたことを今でも鮮明に覚えています。

これだけのキャリアをお持ちの方がジュニア選手の指導を研究されていることに驚きを感じ、指導者として、かけだしの頃でしたから同方向からだけの指導では駄目なのだなと改めて気づかされました。
以後の指導人生においても、私の指導の基本としています。
今でも藤田さんには、感謝、感謝です。

現場は生き物です。
選手個々において特性があり、違いもあります。
したがって、指導者は、必ず自分の物指しを持っておく必要があります。

その物指しこそが基本なのでしょうね。



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